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東京地方裁判所 平成2年(特わ)233号 判決 1990年10月26日

本店所在地

東京都渋谷区千駄ヶ谷五丁目二六番五-七〇九号

株式会社

オーシャンファーム

(右代表者代表取締役 若松京子)

本籍

栃木県下都賀郡石橋町大字下古山一四六九番地

住居

東京都渋谷区桜丘町四番一八-九〇一号

会社役員

若松俊男

昭和二四年二月二日生

本籍

東京都品川区西中延三丁目九〇四番地

住居

東京都田無市芝久保町三丁目一九番一五号

会社員

小澤清

昭和二二年一月三日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社オーシャンファームを罰金一億二〇〇〇万円に、被告人若松俊男を懲役二年に、被告人小澤清を懲役一年四月に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社オーシャンファーム(以下、「被告会社」という。)は、東京都渋谷区千駄ヶ谷五丁目二六番五-七〇九号に本店を置き、不動産売買及び仲介等を目的とする資本金一六〇〇万円(ただし、昭和六〇年一月一七日までは一〇〇万円、同月一八日から同年六月一〇日までは四〇〇万円であった。)の株式会社であり、被告人若松俊男(以下、「被告人若松」という。)は、昭和五九年三月から被告会社の代表取締役の地位にあってその業務全般を統括していたものであり、被告人小澤清(以下、「被告人小澤」という。)は、昭和五一年三月に税理士業務を始め、昭和六一年一月に銀行関係者の紹介で被告人若松と知り合い、同被告人から被告会社の昭和六一年三月期の法人税確定申告手続の依頼を受けてそれに関与し、同年一〇月からは被告会社の顧問税理士をし、昭和六二年三月期の右確定申告手続にも関与したものであるが、

第一  被告人若松は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産仲介取引につき支払仲介手数料を架空計上するなどの方法により、所得を秘匿した上、昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三三一四万六四六四円あった(別紙1の修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和六〇年五月三一日、東京都渋谷区宇田川町一番三号の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一八四万六四六四円であり、これに対する法人税額が五五万四一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成二年押第二三四号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一三三五万一〇〇円と右申告税額との差額一二七九万六〇〇〇円(別紙2の脱税額計算書参照)を免れ

第二  被告人若松、被告人小澤は、共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産仲介取引につき支払仲介手数料を架空計上し、受取仲介手数料を他社に代理受領させ、不動産売買取引につき支払手数料を架空計上し、雑収入を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七億九六三六万八〇五五円あった(別紙3の修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和六一年五月二九日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二億三五三四万九八九〇円で、課税土地譲渡利益金額が一億一六五六万五〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一億二一五八万円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成二年押第二三四号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三億四一一七万二九〇〇円と右申告税額との差額二億一九五九万二九〇〇円(別紙4の脱税額計算書参照)を免れ

二  昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九億一六六六万一〇〇五円あった(別紙5の修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和六二年五月二八日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二億四八四〇万四六九八円で、課税土地譲渡利益金額が一二九八万円であり、これに対する法人税額が一億二二八万二六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成二年押第二三四号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三億八九〇〇万八九〇〇円と右申告税額との差額二億八六七二万六三〇〇円(別紙6の脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人若松の当公判廷における供述及び第一回公判調書中の供述部分(但し、被告会社の関係では、第一回及び第三回公判調書中の被告人若松の各供述部分)

一  被告人若松の検察官に対する平成二年二月五日付、同月六日付、同月一〇日付、同月一六日付、同月二〇日付、同月二六日付各供述調書

一  片桐忠夫の検察官に対する平成二年二月一六日付供述調書謄本

一  幸本守平の検察官に対する平成二年二月七日付、同月一八日付供述調書謄本

一  佐藤登志弥の検察官に対する供述調書

一  収税官吏作成の支払仲介手数料(原価)、謝礼金、分配金、交際費、交際費等損金不算入額の各調査書

一  収税官吏作成の領置てん末書

判示冒頭の事実について

一  被告人若松の検察官に対する平成二年二月一九日付供述調書

一  被告人小澤の検察官に対する平成二年二月六日付供述調書

一  登記官作成の登記簿謄本

判示冒頭の事実及び判示第二の各事実について

一  被告人小澤の当公判廷における供述及び第一回公判調書中の供述部分(但し、被告会社の関係では、第一回及び第四回公判調書中の被告人小澤の各供述部分)

一  被告人若松の検察官に対する平成二年二月二五日付供述調書

一  被告人小澤の検察官に対する平成二年二月二四日付供述調書

判示第一の事実について

一  関英一の検察官に対する供述調書

一  押収してある昭和六〇年三月期分の法人税確定申告書一袋(平成二年押第二三四号の1)

判示第二の各事実について

一  被告人若松の検察官に対する平成二年二月一四日付、同月二二日付各供述調書

一  被告人小澤の検察官に対する平成二年二月二一日付(二通)、同月二三日付各供述調書

一  片桐忠夫(平成二年二月一九日付)、幸本守平(同月一九日付、同月二一日付)、住吉隆弘の検察官に対する各供述調書謄本

一  白石瑞男、山内一郎の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の受取仲介手数料、支払手数料(販売費)、雑収入、事業税認定損、課税土地譲渡利益金額の各調査書

判示第二の一の事実について

一  田中稔、松本安弘の検察官に対する各供述調書謄本

一  収税官吏作成の棚卸商品の調査書

一  押収してある昭和六一年三月期分の法人税確定申告書一袋(平成二年押第二三四号の2)

判示第二の二の事実について

一  被告人若松の検察官に対する平成二年二月七日付供述調書

一  被告人小澤の検察官に対する平成二年二月二六日付供述調書

一  幸本守平(平成二年二月二五日付)、勝野忠明、郷田将充こと呉世天の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の受取利息、有価証券償還益、株式売却益の各調査書

一  検察官作成の事業税認定損算出の捜査報告書

一  押収してある昭和六二年三月期分の法人税確定申告書一袋(平成二年押第二三四号の3)

(法令の適用)

一  罰条

被告会社関係 判示第一、第二の各所為について、法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)

被告人若松関係 判示第一の所為について、同法一五九条一項

判示第二の各所為について、刑法六〇条、法人税法一五九条一項

被告人小澤関係 判示第二の各所為について、刑法六五条一項、六〇条、法人税法一五九条一項

二  刑種の選択 被告人若松の判示第一、第二の各罪及び被告人小澤の判示第二の各罪について、いずれも懲役刑選択

三  併合罪の加重

被告会社関係 刑法四五条前段、四八条二項

被告人若松関係 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の二の罪の刑に加重)

被告人小澤関係 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の二の罪の刑に加重)

(量刑の理由)

本件は、近年の不動産取引ブームに乗り仲介手数料等の収入が急増し多額の利益を得ていた被告会社の経営者である被告人若松と、同社の決算・税申告手続を行い顧問税理士ともなった被告人小澤による被告会社の法人税の脱税事案であるところ、被告人若松が行ったほ脱の額は、昭和六〇年三月期が約一二七九万円、同六一年三月期が約二億一九五九万円、同六二年三月期が約二億八六七二万円で、三年度合計で五億一九〇〇万円余りに達し、被告人小澤はそのうち脱税額の大きな昭和六一年三月期と同六二年三月期の脱税に関与し(関与した脱税額は、五億六三一万円余りである。)、被告人両名によるほ脱額はいずれも相当の高額に上り、またほ脱率は、三年度通算で七〇パーセント弱で、被告人小澤関与の二年度通算でもほぼ同率で、いずれも高率であり、その上、税理士が加担して種々の所得秘匿工作及び証拠隠滅工作を行っており、税理士に対する信頼を損ない、一般人の納税意識を歪めかねない犯行である。そして、その脱税の手段・方法を見ると、所得圧縮の手段としては、いわゆるB勘屋を数多く利用して謝礼金を対価に架空領収証を獲得し、架空の仲介手数料を支払ったように装ったものが、その主要部分を占め、中にはB勘屋から裏金を被告会社に戻させる際に別の会社を経由させるなど手の込んだ方法を用いる場合もあり、その他、他社に架空領収証を発行させて、受取仲介手数料を代理受領させるなどの工作もし、その手段・方法は巧妙、悪質である。とりわけ、被告人小澤の関与した二事業年度においては、架空仲介手数料の計上の配分等につき被告人両名で互いに相談して綿密な検討を重ねた上実行に移すなど、その方法も一段と大胆にして計画的となっている。また、証拠隠滅の点において被告人両名は、本件に関連する査察が始まってまもなく、脱税による資金を元に得た被告会社保有の多額の株式の存在が発覚するや、あくまでも他の会社が保有する株式であると強弁して、それを仮装する工作を行ったり、利用していたB勘屋の代表者の口から架空領収証発行の事実が漏れたことを察知するや、右領収証が正規の仲介手数料支払に対するものであったかのように仮装すべく、その仲介手数料の受取人に当たる者を仕立てて、査察官にその旨虚偽の供述をさせ、その他にも、関係者と通謀して口裏を合せ、虚構の事柄を作り出すなど、様々の悪質な工作を行っている。このように本件事案は、犯行の規模、態様、証拠隠滅工作等において悪質なものである。

被告人両名の個別の事情については、まず被告人若松は、不動産取引ブームと地価の高騰による被告会社の利益の増大を千載一遇のチャンスと考え、将来の不況の場合に備えて、その経営する被告会社の事業資金の蓄積をし、将来の安定した生活の保証を得たいとの気持ちを抱いて本件脱税に及んだものであるが、脱税という手段による事業資金の蓄積が不当であることはいうまでもない。被告人若松は、被告人小澤が本件脱税に関与する以前から、既に相当多額の架空仲介手数料を計上して所得秘匿工作を行っていた上、本件脱税に際して利用したB勘屋は、被告人小澤の斡旋による二社を除いて、いずれも被告人若松自身が関係しあるいは手配した業者であり、被告人小澤から斡旋を受けたB勘屋についても、被告人小澤を介さず自ら積極的に利用するときもあり、更に被告人小澤の関与後においても、同被告人とは関わりなく、雑収入の除外や支払手数料(販売費)の架空計上、あるいは所得秘匿のための関係業者への協力方の依頼などを行っているのであって、被告人若松が、本件三事業年度を通じて一貫して脱税の意図を有し、そのための所得秘匿工作を全般にわたって積極的に行ったものというべきであり、被告人小澤から提言された脱税のための方策を利用して脱税の規模を拡大していったもので、本件脱税を被告人若松は主体的な意思と行動によって行ったと認められる。そして、証拠隠滅工作においても、関係者への働きかけや多額の資金の支出など、被告人若松は一定の影響力を行使している。これら事情からすれば、被告人若松の責任は重い。

次に、被告人小澤は、利益を上げている企業顧問税理士となって顧問料等多額の報酬を得たいとの利欲的な動機から、しかも被告人若松からの誘いがあったわけではないのに、自ら積極的に本件脱税に加担するに至ったもので、その動機、経緯には何ら酌むべき事情がない。そして、被告会社のため単に二事業年度分の虚偽の決算・税申告手続を行ったにとどまらず、多額の架空仲介手数料の計上についてその相手先・金額等に関し、税務専門家としての知識と経験を活かして、被告人若松と相談の上綿密な計画を立て、あまつさえ、その架空仲介手数料の計上先として自らB勘屋二社を斡旋し、更には被告会社とB勘屋との仲介役を買って出て、具体的な所得隠しに一役買って出ており、その他にも所得圧縮の具体的方法について被告人若松にアドバイスするなど、被告人小澤が所得秘匿工作において大きな役割を果たし、それを支えたことは明らかであり、被告人小澤のこうした関与があったからこそ本件多額の脱税が可能となったといえる。そして、被告人小澤は、昭和六一年三月期の脱税の犯行後、被告会社との顧問契約を結ぶに当たり、経営コンサルタント報酬等と称して、通常の額を著しく超えた一〇〇〇万円をも被告人若松に要求して、これを受領し、同時にそれとは別個に高額な月額顧問料の約束を取りつけ、更に、被告会社から被告人小澤の斡旋したB勘屋に対し支払われる謝礼金のうちから、相当部分を自らの手中にして、合計で少なくとも約二二〇〇万円を獲得し、このように被告人小澤は、本件脱税への関与によって多額の利得を得ている。証拠隠滅工作についても、被告人小澤は、脱税の発覚により、自己の税理士の資格が失われることを危惧し、査察官に虚偽の供述をさせる人物を自ら手配したり、査察の進展に伴い被告人若松が接触を避けるようになると、被告人若松に打合せどおりの虚偽の供述をするよう圧力をかけるといった行為にまで及び、自己の保身のためあれこれ策をこらし、卑劣な行動にも出るなど、その演じた役割は大きいものがある。こうして、被告人小澤の本件への加担の態様・程度、事後工作などは、税理士の使命を完全に放てきした誠に悪質なものであり、その責任は重いといわざるを得ない。

一方、被告人若松が本件脱税に及んだ経緯には、不動産業界における悪弊として、仲介業者から不動産取引の当事者側の担当者に裏金を渡すことが行われており、被告人若松は仲介した取引の当事者会社の担当者らから、金員を要求され、それに応じるため裏金を捻出する必要に迫られ、そのため脱税に及んだという一面があることは否定できず、この点で被告人若松のため同情すべき事情があること、被告人若松は、被告会社についてすみやかに修正申告をし、努力の上既に本件関係で納めるべき税のすべてを納め、被告会社の経理・税務処理体制に改善を施して、同種犯行を繰り返さない決意を固め、捜査・公判を通じて反省の態度を示し、更には贖罪寄付によって社会に対する謝罪の気持ちを表わしていること、その他家庭の事情等被告人若松のために酌むべき事情があり、被告人小澤は、苦労して税理士の資格を得、その後は努力して順調に業績を伸ばし、相当の成功を収めるまでに至っていたにもかかわらず、今回税理士としての途を大きく外したもので、正に慙愧念に堪えないところであって、そのため、自ら犯した罪の深さを悟って、登録を抹消して二度と税理士業務に戻らない旨誓い、本件犯行については深く反省改悟していること、今後の更生については、被告人小澤は、一企業の会社員として再出発をし、懸命に働いて新たな人生を切り開いていく決意でおり、周囲の協力も少なからず得られる状況にあること、B勘屋に対する謝礼金のうちから取得した金員は、所得税の修正申告・納付及び贖罪寄付により、同被告人の手元にはもはや残っていないこと、その他家庭の事情等被告人小澤のために酌むべき事情がある。

以上の各事情及びその他諸般の情状を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松浦繁 裁判官 柴田秀樹 裁判官 西田眞基)

別紙1

修正損益計算書

<省略>

別紙2

税額計算書

<省略>

別紙3

修正損益計算書

<省略>

別紙4

税額計算書

<省略>

別紙5

修正損益計算書

<省略>

別紙6

税額計算書

<省略>

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